2015年1月18日日曜日

朱の門に、いくたの願い、結い集う。

お正月は、日本人にとって数少ない長期休暇の一つです。 
旅行に出かける人もいますが、たいていの人は故郷で過ごすのではないでしょうか。
お正月のメインイベントといえば、やはり「初詣」でしょう。

僕は毎年同様、地元神戸の生田神社を参拝しました。

生田神社にて
神社に祀られている神様は神社によって異なりますが、ここ生田神社には「稚日女尊(わかひるめのみこ)」という神様が祀られています。

この神様は、伊勢神宮に祀られる太陽神「天照大神(あまてらすおおみかみ)」の幼名とも、妹とも言われます。

生田神社の創建は西暦201年と伝わり、日本書紀にも登場する神話に由来します。

その年、神功皇后(じんぐうこうごう; 第14代仲哀天皇の后)が朝鮮へ出兵した帰り、現在の神戸港のあたりで船が動かなくなってしまいました。
そこで占いを行ったところ、稚日女尊が現れて「この神戸の地に自分を祀って欲しい」と仰られました。

この稚日女尊を祀るために創られたのが生田神社なのです。

また、生田神社は、もとは六甲山の麓にあったとされています。

それが、799年に起こった大洪水の後、現在の場所に移されました。

その際、もとの境内に多くあった松の木が洪水を防がなかったことから、この神社では松を嫌います。

そのため、ここでは正月に飾られる松飾り(門松)の代わりに杉飾りが飾られています。

杉飾り

生田神社は神戸の中心街である三宮のド真ん中に位置します。

というより、この神社の周辺に街が作られたと言った方が正しいのですが。
「神戸」という地名もまた、この神社に由来します。

その昔、神社に仕える人(神職)のことを神戸(かんべ)と呼んでおり、この神社の周りに神職が多く住んでいたことからその名がつけられたのです。


さて、朱色の鳥居をくぐり境内へ入ると、まずは神様が祀られている本殿へ向かいます。

鳥居

本殿の中へは特別な許可がなければ入れませんので、本殿正面の軒下にて、二礼二拍手一礼の作法で、神様に新年の挨拶をします。

本殿
  
挨拶に加えて、新年の抱負や願い事を述べます。

ただ、挨拶なしでいきなり「こうこうして欲しい」などと願い事を述べても、神様とて気分は良くないでしょうから、効果は期待できません。

しかし、あれほど多くの人の願い事を聞くわけですから、神様もさぞ大変でしょう。

まぁそれができるから神様なのかもしれませんが。

ちなみにここ生田神社にはおよそ155万人、日本で最も多いのは明治神宮で約300万人が初詣に訪れるそうです。


さて、続いては、新年の運勢を占うためにおみくじを引きましょう。

まずは巫女さんから小さな穴の開いた箱を受け取ります。


穴から細い棒を出し、そこに書いてある数字を伝えれば、巫女さんが結果の書かれた紙をくれます。


おみくじ

この紙には、全般的な運勢の良し悪しが「大吉、吉、中吉、小吉、凶」によって示されているほか、
願事、失物、旅行、商売、学問、恋愛、転居、出産、病気、結婚などなど、様々な点についての運勢が書かれています。
この紙は持ち帰ってもいいですが、多くの人は神社の境内にある木などに括りつけて帰ります。

これには諸説あるようですが、神様との縁を「結ぶ」という意味合いがあり、縁起のよいことだとされます。


木に括られたおみくじ

獅子の尻尾にも

さて、本殿への挨拶とおみくじを引き終えれば、これで初詣は終了。

あとは、境内を散歩するなり、写真を撮るなり、お好きなように。

絵馬を書くのもお正月らしくていいですね。

絵馬の表面には、その年の干支が描かれており、裏面に願い事などを書いて奉納します。


絵馬


また、生田神社には毎年、巨大な絵馬が奉納されています。

巨大絵馬

今年の絵馬は羊。

羊と言えば、眠れないときにに数える動物です。

最近は、夢のない時代などとも言われ、若者でも夢を持たない人が多いように感じます。

羊年の今年は、たくさんの人が夢を見れるような明るい年になればいいですね。


さて、初詣を終えて家に帰る途中でひと騒動ありました。

人通りの多い三宮の中心街のど真ん中に、財布が落ちていたのです。

ここがフランスだったら、「新たな持ち主」に拾われるのに3秒とかからないでしょう。

しかし、ここは世界で最も治安のよい日本。 

通りゆく人は落し物気づけども見て見ぬふり。

自分のものにするつもりもなければ、警察に持って行くのも面倒くさいのでしょう。

最終的に、この黒猫の柄が入った財布は僕の手に収まりました。



欧米では、黒猫を不吉な動物とする地域もありますが、日本では魔除けや幸運の象徴とされ、縁起のよい動物とされます。

なので、僕にもきっと幸運なことが起こるはず。

もちろん、財布はきちんと交番に届けました。

悪銭身につかず」です。

この財布の持ち主が引いたおみくじには、「失物」の欄に間違いなく「すぐに見つかる」と書いてあったはず。

もしかしてと思い、僕が引いたおみくじを見てみると、「失物」に「見つかるが役に立たない」とありました。

案の定。。。


山田 剛士

2015年1月15日木曜日

青い葉に、そまる新年、縁起よし。

あけましておめでとうございます。

みなさんはお正月をどのように過ごしましたか?

欧米ではお正月はクリスマスのおまけのようなもので、それほど重要なものではありません。
しかし、日本人にとっては一年で最も重要な行事です。
日本人は普段から縁起を担ぐことが好きな民族ですが、とりわけその特徴がいかんなく発揮されるお正月には、あちらこちらで縁起担ぎのオンパレードが目につきます。

それは大晦日から始まります。

大晦日の夜、私たちは夕食もしくは夜食に「年越し蕎麦」を食べますね。

では、なぜ大晦日に蕎麦を食べるのでしょうか。
 
年越し蕎麦

それは、他の麺類と比べるとコシがなく柔らかいために「切れやすい」という蕎麦の特性から、その年の災いや悪いものを「断ち切る」ためで、
さらに、麺類は長いことから、長く生きられるようにという長寿の願いも込められています。

元旦の朝には、食卓の上に重箱が並びます。


豪華なお弁当のようなその箱を開けると、多種多様で彩り鮮やかな料理が敷き詰められています。
お節料理

そう、お節料理です。
中に入っているものは、地方や家庭によって違いますが、縁起のよいものが多く入れられます。
例えば「海老」は、その形から、背が曲がり、髭が長く生えるまで長く生きられるようにという願いが込められています。
海老

お節料理の代名詞的な存在でもある「数の子」は、子宝に恵まれるように。

数の子

昆布は「こぶ」とも読むことから、「よろこぶ」とかけられ、新年が喜びの多い年となるように。

昆布

縁起ものには、このような「言葉遊び」がよく取り入れられ、縁起のよい言葉と同じ、もしくは似ている音を持つものも縁起のよいものとされます。


縁起担ぎは料理だけではなく、飾りものにも表れます。

一番多く目にするのは、玄関のドアに飾る「注連(しめ)飾り」。

注連飾り
  
日本には、古来より、お正月に「年神様」という新年の神様が各家庭にやって来るという言い伝えがあります。

年神様は、サンタさんのようなもので、プレゼントの詰まった袋こそ持っていませんが、幸運をもたらしてくれます。

注連飾りは、その年神様に迷わずに家に来て頂くための目印、あるいは年神様が訪れるに相応しい家だという証として飾られます。

この飾りものは、「ユズリハ」「ウラジロ」「ダイダイ」という3つの縁起もので作られます。

常緑樹、つまり一年中葉が枯れることのないウラジロは、長寿を呼び込む縁起物。

ユズリハは、その名のとおり、新しい葉が出てきて初めて古い葉が落ちていくことから、家系を代々譲っていく様子に見立てたもので、家系の繁栄を表しています。

ダイダイ(橙)は、だいだい(代々)にかかっており、その家が「代々」栄えるよう願いが込められています。

また、注連飾りには、紙垂(しで)という特殊な切り方と折り方をした紙が添えられます。

紙垂

普段は神社の境内によく見られるこの紙は、その形からもわかるとおり、「稲妻」を表しており、悪いものを追い払うための魔除けの効果があるとされます。

また、古くから雷が落ちると豊作になると信じられていたため、豊かさをもたらしてくれる縁起ものでもあります。


飾りものとしては、門の左右に一対ずつ置かれる「門松」もあります。

門松

これも注連飾りと同様に、年神様を招くための目印です。

門松は、常緑樹で冬でも青々としていることから若さと長寿の象徴として祝いの場に頻繁に登場する「松」と「竹」で作られます。

日本は長寿大国で、WHO(世界保健機関)の調査によると、日本人の平均寿命は84歳で世界一だそうです。

発展した医療のおかげか、はたまた縁起担ぎの効果なのか。

一方で、出生率の低下により少子化問題が深刻化しています。
数の子をいっぱい食べなければ。

2015年がみなさんにとって素晴らしい年となりますように。

また、本年も当ブログのご愛読の程をどうぞよろしくお願いいたします。


山田 剛士 

2015年1月13日火曜日

年の瀬に、世相を残す、年を背に。

フランスをはじめ欧米では、若者を中心にタトゥーを入れている人が多くいます。
その中には、漢字でタトゥーを入れている人を頻繁に見かけます。

寿司や漫画と同じくして、漢字もまた数年前から欧米でブームの的となっているようです。

さて、今回は「漢字」について。

「漢字」はおよそ3000年前に中国で生まれた文字です。

漢字が大陸から日本に伝えられたのは5世紀頃で、それまでは文字というものがに日本には存在していませんでした。

それから数世紀後、日本人は漢字の形を基にして、2つの新たな文字を作りました。

それが「ひらがな」と「カタカナ」です。

以来、我々日本人はこれら3つの文字を組み合わせて文章を読み書きしています。

日本語と中国語は似ており、日本人と中国人がそれぞれの言語で会話ができると思っている外国人は少なくありません。

しかし、幸か不幸か、それは間違いです。

同じ漢字を使っているので外国人からすれば似ているように見えるのでしょうが、日本語と中国語は似て非なるもので、フランス語と英語の関係よりも複雑かもしれませんせん。

日本人は中国語で書かれた文章を読むことができないし、逆もまた然り。

いくつか理由はあるでしょうが、「ひらがな」と「カタカナ」の有無が大きいのではないかと思います。

これら2つの文字は日本語において非常に重要な役割を担っています。

「ひらがな」は、動詞の活用や前置詞、あるいは語気の緩和などに使われ、「カタカナ」は外国語の表記などに使われます。

「ひらがな」と「カタカナ」はそれぞれ46字ずつあり、10万字以上あると言われる漢字に比べると覚えるのは屁でもありません。

とはいえ、日本語の文章を読むためには、そのうちの常用漢字2136字を知っていれば十分なので、日本語を勉強している方はご安心を。

「ひらがな」と「カタカナ」は、アルファベットと同じく「表音文字」という種類に属し、一つの文字が一つの音を持ちます。

対して、漢字は「表語文字」の一種で、一つ一つの文字に意味を持ちます。

これこそが、欧米人が「漢字」に対して興味を持つ一つの理由ではないでしょうか。

僕はフランス人に自己紹介する際に、よく自分の名前の由来を説明しています。

『名字の山田は「山にある田んぼ」って意味やねん。たぶん僕の祖先は山に住む農民やったんやろうな。

名前の剛士(たけし)は、「つよい(剛)サムライ(士)」って意味やねん。僕の親はサムライのように強い人間になるようこの名前をつけたんや』などと言っています。

反応はぼちぼち。たまに予想外の食いつき、たまに苦笑をいいただきます。

さて、漢字と言えば、日本では毎年12月にその年を一つの漢字で表す「今年の漢字」が発表されます。

例えば、2020年の夏季オリンピック・パラリンピックの開催都市が東京に決定した昨年の漢字には「輪」が選ばれ、また、東日本大震災が起こった2011年には、「絆」の文字が選ばれました。

この「今年の漢字」の発表は、京都の清水寺で行われます。

日本で最も有名な寺院の一つです。
江戸時代(1603年-1868年)、234人もの人がこの寺の本堂の舞台、地上13メートルの高さから身を投げました。

清水寺本堂


地上から見上げた高さ13メートルの舞台

彼らは絶望して自殺のために身を投げたわけではなく、願いを叶えるために希望を胸に飛び込んだのでした。

実はこの時期に「もし清水寺本堂の舞台から飛び降り、命が助かったならば願いが叶う」という噂というか都市伝説というか迷信のようなものがあったのです。

この高さから飛び降りれば即死でもおかしくなさそうですが、飛び降りた234人のうちの85%にあたる202人が助かったそうです。

彼らの願いが本当に叶ったのかどうかは僕の知るところではありません。

その後、江戸幕府によって飛び降りが禁止されたため、この噂は消えていきましたが、あることわざだけが現在に至るまで残っています。

それが「清水の舞台から飛び降りる」ということわざで、「思い切って大きな決断をする。もしくは大きな決心をして物事を行う」という意味で使われます。


さて、既にご存知の方も多いかとは思いますが、2014年の漢字はというと...
「今年の漢字」 *写真: www.sankei.com

「税」の文字が選ばれました。

4月に消費税が5%から8%に増税されたことが大きな要因でしょう。

フランスと比べると低い税率ですが、フランスには「付加価値税(TVA)」という、政府が現在検討している「軽減税率」にあたるものがあり、日常生活に欠かせないものにかけられる税率が低くなっています。
消費税は、2015年10月からさらに2%を増税して税率を10%に引き上げられる予定でしたが、経済状況が芳しくないことから、政府はこれを2017年4月に延期しました。
増税に関しては賛否両論があり、安倍総理もまた、「清水の舞台から飛び降りる」ような思いで増税の延期に踏み切ったのかもしれません。


さて、みなさんの2014年はどのような年でしたか?また、2015年はどのような年にしたいですか?

漢字一字で下記のコメント欄までどうぞ。


山田 剛士